北アメリカ南部の古代人は、2500年も前から既に高度な歯科医術を有しており、歯に刻み目や溝を施したり、宝石などの装飾物を埋め込むために“歯医者”に通っていたことが判明しました。
歯医者では、黒曜石などの堅い石を用いたドリルのような器具を使用し、歯に穴をあけることもできたようです。
歯を削る技術は相当の熟練が必要だったと思われ、歯を削る時にはかなりの痛みがあったと推測できます。
Mayan dental history with dental inlays of semi precious stones over a thousand years ago.
人類学者ホセ・コンセプシオン・ヒメネス氏は
「痛みはハーブを原料とする一種の麻酔で和らげたと考えられる。開けた穴に固定された翡翠(ひすい)などの装飾用の石は、樹液や化学物質、骨粉を混ぜて作られた樹脂製の接着剤で固定されていた。歯の解剖学的構造についても高度な知識を持っていたようで、例えば穴は中心の歯髄に達する前で終わっている。感染症や歯の欠損、損傷を防ぐ術を知っていたのだ」と語っています。
16世紀にスペイン人が征服する前のメソアメリカと呼ばれる地域に暮らしていた人々には、
歯に切れ込みを入れたり、宝石類などを埋め込んだりする「歯牙変工(しがへんこう)」という風習がありました。
歯を削る風習は、日本の縄文時代に行われていた「叉状研歯(さじょうけんし)」にも見られますが、マヤ文明の場合、日本よりも広い地域で行われていたと考えられます。
多くの墓から「歯牙変工」が発見されており、前歯数本を削って「T字形」に見せたものや、鍵状に削ったものなど、バラエティに富んでいます。
従来の説ではおしゃれの一つだったとする考え方もありますが、「歯牙変工」は前歯にほぼ集中しており、人に見せることを意図して行っていたことは間違いないだろうと考えられています。
翡翠を埋め込んである歯を持った人物は、副葬品との関連からも社会的な地位が高かったことがうかがえます。
また「T字形」は、現存する4つのマヤ人による絵文書のうちの1つであり、『ドレスデン絵文書』に出てくる雨の神や太陽神「キニチ」の前歯にも認められることから、「歯牙変工」された人物は、神と関係した宗教儀礼でも大切な役割を果たしていたと考えられています。または、通過儀礼の一種だった可能性も指摘されています。
参照 : National Geographic News
http://news.nationalgeographic.com/news/2009/05/090518-jeweled-teeth-picture.html